コウモリは、口から発した超音波が物にあたって跳ね返ってくる様子を発達した耳で聴くことで、障害物を避けて飛んだり、餌となる昆虫を見つけたりする(エコロケーション)。ヤママユガ科の長く伸びた後翅は、おそらくガの胴体と同じように超音波を反射するため、コウモリは尾の方をガの胴体と錯覚してしまう、とのこと。このような"錯聴"効果を生み出すのに最適な翅の形には4つのパターンがあるようで、これらはヤママユガ科の分化の過程で(おそらくコウモリを淘汰圧として)独立に何度も進化したとみられる模様。ちなみに、これらの奇妙な形が特に前翅ではなく後翅で発達したのは、後翅が飛行にとって致命的には重要ではない(前翅をもぐと蛾は飛べなくなるが、後翅をもいでも飛ぶには飛べる)ためと考えられているらしい。これは知らなかったが、チョウやガに進化的に比較的近いハエやアブの後翅が棍棒状に退化していることを思えば納得できる。逆に前翅が飛行の役に立っていなさそうな甲虫類がどうやって進化したのかは気になるところ。
原著論文はオープンアクセスのサイエンス・アドバンス誌に掲載なので、無料で読める。
Rubin et al. (2018). The evolution of anti-bat sensory illusions in moths. Science Advances. 4(7), eaar7428.