2018年7月9日月曜日

ヤママユガの長い尾はコウモリの耳をくらませるために進化した

サイエンスの記事の紹介。


植物への擬態や、偽の目玉模様など、捕食者の目をうまくだまして捕食を逃れるしくみは数多く知られているけれど、どうやらヤママユガ科の蛾の翅の長い尾は、捕食者であるコウモリの耳をだます役に立っているらしい。

コウモリは、口から発した超音波が物にあたって跳ね返ってくる様子を発達した耳で聴くことで、障害物を避けて飛んだり、餌となる昆虫を見つけたりする(エコロケーション)。ヤママユガ科の長く伸びた後翅は、おそらくガの胴体と同じように超音波を反射するため、コウモリは尾の方をガの胴体と錯覚してしまう、とのこと。このような"錯聴"効果を生み出すのに最適な翅の形には4つのパターンがあるようで、これらはヤママユガ科の分化の過程で(おそらくコウモリを淘汰圧として)独立に何度も進化したとみられる模様。ちなみに、これらの奇妙な形が特に前翅ではなく後翅で発達したのは、後翅が飛行にとって致命的には重要ではない(前翅をもぐと蛾は飛べなくなるが、後翅をもいでも飛ぶには飛べる)ためと考えられているらしい。これは知らなかったが、チョウやガに進化的に比較的近いハエやアブの後翅が棍棒状に退化していることを思えば納得できる。逆に前翅が飛行の役に立っていなさそうな甲虫類がどうやって進化したのかは気になるところ。

原著論文はオープンアクセスのサイエンス・アドバンス誌に掲載なので、無料で読める。
Rubin et al. (2018). The evolution of anti-bat sensory illusions in moths. Science Advances. 4(7), eaar7428.

2018年6月13日水曜日

アメリカの蝶・蛾 2017秋-2018春

すっかり更新をサボってしまった。

夏季休暇というわけでしばらく東京へ帰ってきていたのだけれど、やはりコネチカットより東京のほうが虫が多く、そして大きい印象を受ける(高温多湿だからか)。
田舎へ行くとアリが大きい、という俗説があるが、それで行くと日本は田舎である。

一年間で遭遇し(、そしてインスタグラムに投稿し)た鱗翅目類をざっとまとめる。

オオカバマダラ Danaus plexippus
2017.08.15 New Haven, CT
大集団で北米大陸を南北に移動して、時には集団で着陸してきた蝶の重み(!)で木が折れることもあるという、オオカバマダラ。子供の頃今森光彦の『世界昆虫記』などで見て、世の中にはこんなすごい生き物がいるのか、と思ったが、結構普通に飛んでいる。
ちなみに昆虫は渡りの際に空の偏光のパターンをコンパス代わりに使うということで、その神経メカニズムに関する論文がここ数ヶ月で何本か出た。渡りを行わないショウジョウバエでも、空の偏光パターンに対して一定の角度を保って何キロも直線的に飛行することが知られており、これは新しい環境に到達する(=遭難しない)ことに役立っていると考えられているそう。





Hoary Edge Skipper Achalarus lyciades
2017.08.20 New Haven, CT
羽の縁が灰色(Hoary)になっている、やや大型のセセリチョウで、よく見かける。寮の裏手の藤の花に止まっていた。




メスクロキアゲハ Papilio polyxenes
2017.08.27 Connecticut, USA
路上でへたばっていた。




ヨーロッパアカタテハ Vanessa atalanta
2017.10.07 New Haven, CT
日本でも普通に見られるアカタテハの近縁種。




Gray Hairstreak Butterfly Strymon melinus
2017.10.09 New Haven, CT
北米でもっとも普通に見られるミドリシジミの一種だそう。





Silver Y Autographa gamma
2017.10.09 New Haven, CT
「銀のY」の名の通り、白銀色の"y"の字の紋が特徴的なキンウワバ亜科の蛾。




不明の蛾。




おまけ
博物館の昆虫ドームで見た蝶と蛾。

カリフォルニア科学アカデミー(サンフランシスコ)の昆虫ドーム



国立自然史博物館(ワシントンD.C.)の昆虫ドーム


2017年8月9日水曜日

やっぱりスズメが好き!


花火大会に行く途中で、出会った。
手に乗せると、「ちーっ」とおしっこを飛ばして、
少し震えた後で、バサバサと不器用な羽ばたきでどこかへ行ってしまった。
月の女神の名前がついている割に、振る舞いはお転婆なところがある。
ギャップがいいね。


クチバスズメよりは小ぶりで、飛ぶ時に桃色の後翅がちらりと見える。
食草もモモの類らしい。プラムとか、そういう。

スズメガはおとなしい大型種で、都会ではヤママユガよりも身近にいるから、
見かけるとついつい捕まえて、手にのせてしまう。
きっと迷惑なんだろうな... でもやめられないんだよなぁ...

2017年8月7日月曜日

オン グラフィティ 



スジベニさんはベイツ型擬態なんでしょうか... 
赤い筋は個体によって消失したりするらしいですが、これはよい発色。
思ったより小さくて、壁にへばりついて写真を撮りました。

職場の入り口で。

2017年7月28日金曜日

東京の蛾 2017春夏 / 飛びます

今年3月をもって都心にあって新種のカメムシが見つかるほど森深い東大駒場キャンパスを離れてしまったため、なかなか新たな蛾に出会う機会がなく、すっかり更新が滞っていましたが(というのを毎ポスト書いていますが)、ここらでここ3ヶ月で出会った蛾・蝶たちをサクサクまとめて紹介しておこうと思います。

シャクガの一種?
2017.05.06 兵庫県多可町
網戸に飛来。やっぱり田舎は虫が多い。



ヨモギエダシャク? Ascotis selenaria
2017.05.14 東京都調布市
自宅ベランダのオリーブの鉢植えに突如出現していた、5cm以上ある大型のシャクガの幼虫。オリーブのような硬い葉でもちゃんと食べられるのだろうか。1週間ほど毎日動きを見守ったが、その後忽然と姿を消してしまった。鳥に食べられたのか、潜って蛹になったのか?




アカボシゴマダラ Hestina assimilis
2017.05.20, 2017.07.16 埼玉県和光市, 東京都江東区
この蝶がいるということにそもそも数年前は気づいていなかったほどなのに、今ではごくごく普通に見られる蝶になった。アゲハチョウ類と比べるとなんとなく鈍いというか、抜けている感じで、人が近づいてもほとんど逃げず、こんな風に手にも乗ってくる 。特に涼しい日は止まっていることが多いので、南方系と言うだけあって低温には弱いのかもしれない。




ちなみに2つめのInstagram投稿の2枚目はアカボシゴマダラと同じくお台場海浜公園で見つけたシモフリスズメ(Psilogramma incretum)と思われる。

アゲハチョウ Papilio xuthus
 2017.07.08 東京都調布市
何もない壁面を登攀中のところを発見。なんとなく貫禄がある。





ドクガの一種?
2017.07.22 東京都目黒区
駒場キャンパスに立ち寄った際に発見。頭の前方に突き出た毛むくじゃらの部分は脚か?チャドクガなどよりは一回り大きかったが、同定は断念。この運動場の防護ネットは昆虫が多く飛来することで大学院生の間で話題で、とある先輩にいたってはウスバカミキリまで発見したということ。



以下、スズメガ3連発。

コスズメ Theretra japonica
2017.06.22 東京都調布市


セスジスズメ Theretra oldenlandiae
2017.07.19 埼玉県和光市


トビイロスズメ Clanis bilineata
2017.07.24 東京都調布市



さて、最後になりましたが、明日より日本を離れ米Yale大学で博士号取得を目指して研究を行うことになりました。これからはMothpeopleを「北米のホットな蛾情報がリアルタイムで日本語で読める唯一のブログ」として益々発展させていこうと思います。
ちなみに研究分野としては(これまでの実験心理学からシフトして)ショウジョウバエを用いた知覚の神経回路機構の研究を行う予定です。ちなみに撮影地として頻発している「埼玉県和光市」の某研究所でも、同様の研究のお手伝いをさせていただいていました。小学校の卒業アルバムなんかには、海野和男さんとか栗林慧さんとかの本を読んで憧れて、「昆虫写真家になりたい」なんてことを書いていましたが、巡り巡ってハエ脳のライブイメージングなどをやっていたので、数奇なものだと思います(もちろん、それだけが動機ではないですが)。神経科学、とくにシステム論的観点からの研究では、蛾、特にスズメガやカイコ等はよく使われるモデル生物ですので、今後は論文紹介等も増やしていければと思っています。いわゆる「虫屋」的・博物学的観点だけでなく、科学的、あるいは文化的など、多角的な観点からの蛾情報を発信していく所存です(依然執筆者も募集中です)。

▲自宅玄関にて、捕獲したトビイロスズメと。






2017年7月18日火曜日

夏への扉



近所の垣根にビロードハマキの幼虫がでるのだけど、
知らないうちにいなくなっちゃってたんだよなぁ。
植木屋さんでも入ったのかなぁ... と思っていた1年前。

” 今年はなんとしても成虫を拝むぞ〜”
と粘りに粘って、6月の初旬についに出会ったのが上の彼女です。
彼女というのも、大きい方がメスで、ちいちゃいのがオスなのです。
柄も、雌雄ではちょっと白い斑点の配分が違うよう。
植木屋さんが入らないで、秋も見られると嬉しいけど、さてさて...

2017年4月23日日曜日

草間彌生の蛾

すっかり投稿の間隔が空いてしまいましたが、そのうち蛾に遭遇するようになれば更新頻度も上がってくることと思います。

さて、先日新国立美術館で開催されている草間彌生展に行ってきました。個人的には「世界平和」「感動」などの現代美術らしからぬ(?)パワーワードが全面に押し出された強烈な作家の序文と、会場内で撮影会(?)みたいな事をやっていた客が一番ツボだったのですが、思いがけずベニスズメの写真をでかでかと使ったコラージュ作品(『我が巣立ち』、1975年)を発見したので報告。
収蔵は千葉市美術館のようです。