2016年12月3日土曜日

冬の蛾とカリフォルニアの思い出

先々週、修士論文のために行っている研究を発表しに、サンディエゴで行われた学会に参加してきた。亜熱帯のサンディエゴでは、11月後半でも日中は30度近くまで気温が上がる。それだけに、ここ最近の東京の冷え込みがいっそう際立って感じられる。


サンディエゴの夕暮れ。

実は今、修士号取得後に渡米して昆虫の神経の研究に鞍替えすることを画策している。学会会場で、出願先のハエ研究者と話す機会があったので、雑談ついでにこのブログのことを話したら、大ウケした。何がどこで役に立つかわからないものである。

ところで、僕にとっての海外旅行の楽しみの一つは、現地の見慣れない動植物を観察することにある。空港から駅を目指して歩いていると、植え込みの鮮やかなピンクの花に、これもまた目の覚めるような鮮やかな黄色の蝶が飛んでいるのが散見された(おそらくCloudless Sulphur)。札幌でも見かけたヒメアカタテハも見ることができた。「南極を除く全大陸に分布」というのはどうやら本当らしい。ただそれ以降は、あいにく会場が街中だったため、残念ながらほとんど昆虫を見かけることはなかった。

ブドウトリバ Nippoptilia vitis
2016.11.07 東京都目黒区
大学のコンピュータールームをふわふわと飛んでいる所を発見。
小さい蛾だが、十字架のようなフォルムに刺々しい脚がゴスい。




クチバスズメ Marumba sperchius sperchius
2016.11.10 東京都目黒区
大学によってから羽田に向かう最中に発見。
縦に4~5cmほどあるように見えたので、スズメガかと思ったが、とまり方がややスズメガらしくなく見え、自信がなかったのでInstagramでは?とした。
今あらためて見直してみると、体軸に平行な薄い筋のあいだにぼんやりとした暗褐色の斑点がある所、翅の先のえぐれた部分などが、クチバスズメのように見えるものの、いくら検索してもこのようなとまり方をしているものが見つからないので、やはり自信がない。時期的にもやや遅すぎるような気もする。




チャエダシャク Megabiston plumosaria
2016.11.29 東京都調布市
これも紛らわしい模様のエダシャクが山ほどいて手間取ったが、太い帯状に見える模様が独特。11月に一回だけ発生ということで、まさに冬の蛾と呼ぶにふさわしい。心持ちツィードの上着のようなテクスチャである。




マエアカスカシノメイガ Palpita nigropunctalis
2016.12.01 東京都目黒区
二回目の登場。

2016年11月20日日曜日

秋の蝶

「秋の蝶は死にゆくものの象徴である」といったようなことを、高校の国語の授業で聞いたおぼろげな記憶があるのだけれど、何の作品の話だったのか、もはや思い出せない。ウェブで歳時記のたぐいを見る限り、「秋の蝶」が必ずしもいつも侘しいイメージで捉えられているわけでもないようだ。もっとも9月の蝶と11月の蝶では話が違うが。

アカボシゴマダラ Hestina assimilis
2016.10.14 東京都目黒区
7月に続き2度めの登場。年複数回発生だろうか。10月のこの頃、低い所をふわふわとよく飛んでいた。南方系の外来種ということだが、台湾の昆虫愛好家のInstagramによく登場するのを見る。




コミスジ Neptis sappho
2016.10.31 東京都目黒区
落ち葉のように翅を開いたままヒラヒラと飛ぶのが特徴的。似た模様の近縁種がいくつかいるが、前羽の端のあたりを見ると区別できるようだ。学名の"sappho"の由来が気になる。




ウラギンシジミ Curetis acuta
2016.11.11 東京都調布市
大型のシジミチョウ。不思議に硬質で、貝のような印象を与える。

2016年11月2日水曜日

運動場のネットは夢がいっぱい (2)

蛾とは関係ないけれど、朝履こうとした靴下からキマダラカメムシが出てきたので気が動転している(手がまだ臭う)。干している時に入ったのかしら。

ヒメアケビコノハ Eudocima phalonia
2016.11.2 東京都目黒区
いよいよ冷え込んで来たが、今日も運動場のネットで蛾を発見。形がシャチホコガに似ている割に大きく(ネットの網目が約4cm四方)苦戦したけれど、(写っていないけれど)鼻先というか、丸まった触角がアケビコノハに似ていたので、これを手がかりに同定することができた。ちなみにこれはメスで、オスはもっと「木の葉らしい」模様のよう。こんなところにも性淘汰が働くのだろうか?




2016年10月21日金曜日

運動場のネットは夢がいっぱい

寒くなったからなのか、はたまた自分の心に余裕がないのか、蛾を見にとめる機会がめっきり少なくなってきた今日このごろだが、今日は珍しく豊作だった。

エビガラスズメ Agrius convolvuli
2016.10.21 東京都目黒区
大学の除草作業で焼け出され(?)たのか、運動場のネットにひっかかっていた個体。学名のConvolvuliは食草であるユウガオの学名に由来しているよう。



▲ 前から見るとナウシカの小動物みたいである

カキバトモエ Hypopila vespertilio
2016.10.21 東京都目黒区
先月に引き続きカキバトモエを発見。こちらも運動場のネットにつかまっていた。腹や脚は明るいオレンジ色だが、裏から見ても驚くほど葉っぱにそっくり。

▲ ネットに止まっている虫はなかなかAFでピントが合わず、
撮影が難しい(けっきょくなれないMFで撮影)。

▲ 苧麻の上に移動してもらった。


2016年10月17日月曜日

手乗りんぐ(ヒルガオトリバ)

知ってますか、手乗りんぐ。

蛾を手に乗せて、手乗りんぐ。
大きい種類(8月参照)はともかく、こんな小さいのにも挑戦しました。
かわいいですね、Tの字です。

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Seiren Kohiyamaさん(@soeren9)が投稿した写真 -

いもむしのきもち(かんじのちがういもむし3種)

いっかいトロトロにとけるきもち
とけてまたかたちになるきもち
てつがく的だよね、さっぱりわかんねぇけど

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あと、コンクリートを横断しようとしている芋虫って、
国道を横断しようとしている猫みたいなもんだと思うんだけど、
どうしてうまくいくと思うのか、あたしゃ不思議だよ

2016年9月28日水曜日

カキバトモエ

カキバトモエ Hypopyra vespertilio
2016.09.27 東京都調布市
自宅マンションの廊下の天井にとまっていた。かなり大きくて迫力がある。枯れ葉に擬態する蛾にはアケビコノハやカレハガなど色々あるが、全身で葉っぱ1枚を模したものは珍しいのではないか。ネットで見られる写真によるとどうやらかなり模様に個体差が大きいようで、そのこと自体を紅葉すると赤・黄・緑・黒の斑になる柿の葉になぞらえた名付けだろうか。同定に間違いがなければ、この個体はかなりプレーンな「柿の葉」と言えそうだ。


2016年9月19日月曜日

スジエグリシャチホコ

スジエグリシャチホコ Pitlodon hoegei

2016.09.18 東京都目黒区
あんまり同定に自信はないが、2つ前のpostにつづいてのシャチホコガ。
これも枯れ枝に擬態しているのだろうか。シャチホコガ類は本当に擬態が多彩で驚かされる(中にはムラサキシャチホコのように存在しない「奥行き」を表現しているものまでいるようだ)。
擬態を可能にする遺伝学的なしくみも興味深いが、擬態は彼らの捕食者が「何を見ているか」についても教えてくれる。捕食による淘汰圧がこのように精巧な擬態を誕生させた、ということは、彼らの捕食者の視覚系が、相当の解像度と色覚を備えていることを意味するわけである。

2016年9月16日金曜日

夏休みの蛾

8月序盤以降、あまりめぼしい蛾の写真が集まらず、更新が滞っていましたが、今週に入って比較的大型の蛾と数匹遭遇したので、前回更新以降に田中が見つけた蛾/蝶の写真を一挙に公開することにしました。

オビヒトリ Spilarctia subcarnea
2016.08.11 東京都調布市
背中は白の毛皮のコートのようだが、腹側は差し色の赤が美しい蛾。横から撮影した写真もあったが、ピンぼけなので割愛。今の携帯電話もそろそろ使いはじめて3~4年経っており、そろそろもう少しいいカメラのついたモデルが欲しいところ。




イチモンジセセリ Parnara guttata
2016.08.21 東京都目黒区
よく蛾と誤認される蝶。イネ科植物が食草ということでどこでも見られる。後ろからゆっくり近づけば簡単に捕まえられる。小学生の頃、捕まえては羽をむしっている下級生の子供がいた覚えがある。




何らかのミノムシ(ミノガの幼虫) Psychidae
2016.09.09 東京都調布市
よくこの手の物体が壁についているのだが、動いているところを目撃してはじめてミノムシと認識した。




ヤマトシジミ Psudozizeeria maha

2016.09.11 東京都目黒区
こちらも非常にありふれた蝶だが、カメラをかかげて近づいても逃げないほど落ち着いているのは珍しい。この日は気温がかなり低かったので、やはり変温動物である昆虫は不活発になるのかもしれない。




シモフリスズメ Psilogramma increta

2016.09.11 東京都目黒区
大学の路地に落ちているのを発見。拾い上げたがもうまっすぐ飛べなくなってしまっていた。スズメガの仲間はどれもボリューム感があって見つけると嬉しいが、エビガラスズメなどとともにスズメガ科スズメガ亜科に入る本種は全体のプロポーションが細身だがモコモコした質感なのが特徴的だ。




▲ 道に落ちている状態。

▲ 手を差し出すとおとなしく上ってくるが、終始プルプルしている。飛んでいるつもりなのかもしれない?

サクラケンモン Hyboma adaucta

2016.09.14 東京都調布市
自宅の外壁に付着している所を発見。ヤガの仲間は似た形のものが多く、種類数も豊富なので図鑑で見つけるのが大変である。ところで昔ながらの標本写真を使った図鑑では、蛾は展翅してあるのが普通だが、展翅してしまうと野生でのシルエットがわからなくなってしまうため、とくに翅をたててとまる蛾の同定には役立たないことが多い。




コスズメ Theretra japonica
2016.09.15 東京都目黒区
前にも自宅マンションの廊下天井に付着していたものを紹介したが、今回は同様に外壁についていたものを虫あみで捕獲してみた。近づいてみると腹のオレンジと頭の抹茶色の対比が美しい。シモフリスズメと異なりホウジャク亜科に分類される本種は、左右の翅のつき方が直角に近く、ハンググライダーのように見え、精悍な印象を与える。



▲ 上から見た図。

▲ やはり手に乗せるとプルプルする。


2016年8月21日日曜日

頭隠して尻隠さず(オオエグリシャチホコ・ツマキシャチホコ)

 シャチホコガはなんか幼虫がガチャガチャになってて、そっちの方が有名ですが、成虫は成虫で特徴的なお姿で好きです。

翅を閉じた形が山型だったら、シャチホコガかイラガの仲間です。どちらも翅の先から腹端が覗いているのが、「おい、はみ出してるぞ!」って感じで可愛い。イラガはずんぐりむっくりしているので、シャチホコガと間違えることはないと思います。

最近出会ったのは、オオエグリシャチホコとツマキシャチホコです。
オオエグリシャチホコは翅の中央がえぐれているのが面白いですが、それ以上に翅の模様がなんとも言えず、美しい。
ツマキシャチホコは、言わずもがな擬態のプロです。食草であるブナ科の枯れ枝と見まごう姿に見とれます。ツマキ〜には類似種がいますが、いずれも識別は難しめです。



2016年8月16日火曜日

美味しい蛾(トビイロスズメ、モンクロシャチホコ)

トビイロスズメはきな粉みたいな色をしている。お腹がぷっくりしていて、食べたくなるかわいさだが、

…「本当に美味しい」らしい(幼虫が)
マメ科の植物を食草とし、幼虫は中国語で「豆虫」と呼ばれるそうです。(wiki)

モンクロシャチホコの幼虫は黒くて毛の長いいかにもな風貌だが、
…食草である桜の香り(クマリン)がして「美味しい」らしい。

食草でフレーバーが決まると言っても過言ではない…なんだか高級肉みたいな話です。



2016年8月10日水曜日

今週の蛾

酷暑が続いている。
家と大学を、暑い野外と冷房のきいた屋内を、頻繁に行き来しているうちに、すっかり夏バテして風邪をひいてしまった。読者諸兄におかれてはくれぐれも体調に注意されたい。

今週みつけた蛾を紹介する。

コエビガラスズメ Sphinx constricta
2016.08.09 東京都目黒区
腹の模様がエビガラスズメに似るが、系統関係として近いというわけではないらしい。威嚇の役に立ったりするのだろうか。スズメガ全体を英語でSphinx Mothと呼ぶようなので、Sphinx属は典型的スズメガという位置づけなのだろう。


田中2.02さん(@rtanaka_tokyo)が投稿した写真 -


マエアカスカシノメイガ Palpita nigropunctalis
2016.08.09 東京都目黒区
紫っぽく写ってしまったが、本当は白くて半透明。




モンクロシャチホコ Phalera flavescens
2016.08.10 東京都目黒区
遠くから見ると芋虫のように見える。鳥の糞に擬態しているのだろうか。

田中2.02さん(@rtanaka_tokyo)が投稿した写真 -

2016年7月30日土曜日

つくばの蛾

所用でつくばに来ています。
自然がいっぱいなので、蛾もたくさいんいます。
朝食バイキングを食べながら、窓の裏側に発見した蛾を2匹紹介します。

ヒルガオトリバ(?) Emmelina argoteles
2016.07.30 茨城県つくば市
なぜこれで飛べるのか不明。



ヒメマダラミズメイガ Elophila turbata
2016.07.30 茨城県つくば市



ほんとうはホウジャクの仲間も見つけたのですが、暗くてうまく写真が撮れませんでした。残念。 蛾以外の虫の写真も続々溜まってきていますので、Instagramもぜひ。

2016年7月20日水曜日

LARKLAMP | 蛾のボドゲ

ランタン型のboard game
サイコロの出目と特殊カードを使って、自陣に蛾をおびき寄せれば勝ち。

kickstarterより
出典:https://www.kickstarter.com/projects/pdwarne/larklamp-magic-lantern-game-system

青山フラワーマーケット

アカボシゴマダラ

1990年代に日本に持ち込まれた外来種。

奄美大島で見られる個体に対して後翅の赤星が未発達(三日月状)であることから、
関東で見られる個体は前者が北上したものではないことが分かる。

って、じっちゃんが言ってた。

2016年7月16日土曜日

ヒロへリアオイラガ

一匹ずつ離れているし、終齢幼虫だろう。
図鑑には1920年頃に侵入した外来種、原産:印・中とある。
温かい地域から北上しているとのこと。

幼虫も成虫も見栄えする色遣いだけど、触るとムチャ痛い。らしい

2016年7月14日木曜日

ヒメアカタテハ

ヒメアカタテハ Cynthia cardui
16.07.09 北海道札幌市東区



研究関係の出張で、北海道に行ってきた。ネットで検索すると、北海道では時折マイマイガやクスサンが大量発生しているようなので、やや期待して行ったが、特に蛾が多く見られるということはなかった。写真のヒメアカタテハは南極を除く全大陸に分布しているとのこと。

2016年7月11日月曜日

チャドクガ飼育記


5月になると、椿や山茶花の植木からなにやらプチプチ…プチプチ…と小さな音が聞こえてくることがある。不思議に思ってよく見ると、おびただしい数の毛虫が整列して葉を食んでいる禍々しい光景に気づいて、思わず身の毛がよだつ。チャドクガの幼虫である。

チャドクガ Euproctis pseudoconspersa
16.06.20 東京都調布市



「蛾の鱗粉には毒がある」という広く流布したステレオタイプは、99%の種については間違っているが、(その名のとおり)チャドクガに関してはその限りではない。幼虫も成虫も、体の表面に「毒針毛」なる毛を生やしており、これに触れるとひどくかぶれるそうだ。

***

ところで、私の大学の研究室の窓の目の前に、山茶花の木が数本植わっている。すでにオチがバレバレだが、案の定枝いちめんにびっしり張り付いたチャドクガの幼虫を見つけてしまった。

▲ チャドクガの幼虫。葉1枚にざっと2~30匹ついている。

毎朝研究室のカーテンを開けるたびに、どうしても目に入ってしまう毛虫の大群。怖いもの見たさで毎日観察していると、これでなかなか秩序だった行動をすることがわかってきた。採餌は必ず整列して行うし、枝から枝へは必ず群れで移動する(これは、照葉樹の硬い葉に「最初の一口」をいれるコストを減らす役に立っているということらしい)。群れる虫、というといかにも厭らしい響きだが、同種他個体を見分けて何らかのコミュニケーションを取らねばできない芸当だから、なかなか賢いものである。彼らの行動をもっとよく観察するために、思い立って数匹捕まえてみることにした。



▲ 捕獲直後の様子(6/10)。5匹捕まえた。
サザンカの葉をすこし折り取って餌とした。2Lペットが虫カゴ代わり。

6月10日: 1日目

初めは新しい環境に戸惑ったのか5匹ともじっとしていたが、しばらくすると枝やペットボトルの壁を昇り降りして探索し始めた。観察の結果、チャドクガの幼虫は、歩きまわる以外に①他個体と出会うと頭を激しく上下に振る ②割り箸などでつつくと体の前後を強く反らす という2種類の特徴的な行動を示すことがわかった。特に①は集団としての規律ある行動を生み出すのに何らかの役割を果たしているのかもしれない。

▲ 数時間経つと、いつの間にか一枚の葉に整列していた。

6月11日: 2日目

どうやら5匹ではパワー不足だったらしく、一口も葉っぱには口がつけられておらず、ウンコだけして痩せていた。かわいそうなので、破いた葉っぱを与えたら、歩いて行って食べ始めた。

6月12日: 3日目

早くも3日目にして3匹が繭を作り始めた。

▲ 茶色の球状のものが繭。意外と目が粗い。

6月14日: 5日目

全個体が繭を作った。

6月28日: 19日目

そろそろ蛾ボトルの存在を忘れかけていたある日、自分の研究室のブースの扉を開けると、蛾が一匹飛んでいた。羽化した成虫がボトルから出てきたらしい(油断して蓋を開けっ放しにしていた)。虫カゴで捕獲して、外に逃がしてあげた。ボトルにはティッシュで栓をした。

▲ 大きな触角があるので雄。心持ちアジフライに見える。

▲ 離す直前。なかなかカゴから離れようとしなかった。この頃には野外のツバキやサザンカからも幼虫の姿は消えていた。

6月29日: 20日目

翌日も新たにもう一匹羽化していた。羽の模様に少し個体差があるのが面白い。こちらは触角が目立たないので雌だろう。

▲ 翅の端のドットが1匹目よりも多い。

また、この日はブース内でもう1匹やや羽化に失敗した体の成虫が発見された。おそらく28日目までに羽化したものだろう。2匹とも合わせて逃がしてあげた。

おわりに

その後2週間ほど経ったが、新たな成虫は現れていないので、残念ながら残りの2匹は蛹のまま死んでしまったのかもしれない。とはいえ、ほとんど手入れなしで半分以上は羽化まで行き着いたので、流石にしぶといというか、なかなかお手軽な飼育であった。今後も身近な芋虫毛虫の羽化に挑戦してみたい。



2016年6月30日木曜日

バラシロエダシャク?

写真から蛾を同定するのは難しい。知らない種類が多いうえに、小さい種が多く、模様がなかなか鮮明に映らないからだ。もっとも頼りになるのは「かたち」だ。多少ぼけた写真でも、かたちならはっきり写るし、近縁種なら、模様は千差万別でも、かたちはほとんど変わらない事が多い。そこで、蛾の同定では、「一目見て似たようなかたちの種を思いつけるか」どうかがカギになる(上級者にはもっと別なコツがあるのかもしれないが)。ひとたび類縁種に当たりをつけたら、あとは「みんなで作る日本産蛾類図鑑」のサムネイル一覧などを使って近縁種を虱潰しに調べていく。

今回同定に苦労したのは次の写真だ。



今回も、かたちから一目でエダシャクの仲間であることは見当がついた。しかしその先が難しい。全身白に、ぼんやりとした模様の入ったエダシャクが何種類もいるし、それぞれの種の異なる写真を見くらべると、どうもかなりの個体差があるようだ(工業暗化のことを思い出せば当然だ)。 この写真も、「みんなで作る」に記載されている限りではバラシロエダシャク Lomographa temerataにも見えるが、それにしては白いし、ナミスジシロエダシャク Orthocabera tinagmaria tinagmariaにも見えるが、それにしては黒い点が多いし、頭や背中が黄色くない。どちらの種も、個体差があるだろうからと思い、Google画像検索もしてみたが、上の個体のように翅の縁が「…」模様になっているものは見当たらない。インスタグラムでは仮にバラシロエダシャクということにしてしまったが、真相やいかに。

※追記 (16/07/01)
どうやらナミスジチビエダシャク Scopula presonata らしい。最初のエダシャク亜科という見立てが間違っていたようだ。

2016年6月19日日曜日

『蛾売りおじさんの本棚』を見てきた

池袋ジュンク堂で開催中の『蛾売りおじさんの本棚』なる展示を見てきた。
蛾をモチーフにした刺繍や絵などを制作されている蛾売りおじさんという方の作品の展示販売とあわせて、おすすめの蛾の本の紹介がされていた(ブログ)。「蛾の本」なんてそんなにあるものだろうか、とも思ったが、養蚕をテーマにした子供向けの科学絵本系は結構あるようだ。ちなみに『本棚』には多分入っていなかったが、『イモムシハンドブック』というのがかなり売れているようで、目立つところにおいてあった(現在3巻まで刊行されており、第1巻は第10刷だった)。
会期は6月30日まで。







2016年6月12日日曜日

ヒカゲチョウ

ヒカゲチョウ Lethe sicelis
16.06.12, 東京都調布市
その名の通りタテハチョウ科の蝶だが、「色が地味」「目玉模様」「日陰にいる」「バタバタ飛ぶ」「翅を開いてとまる」といわゆる"蛾"のイメージにぴったり合致しているせいで、(イチモンジセセリ等と並んで)よく蛾に間違えられている(と思う)。こちら側からだと目玉模様はほぼ見えないが、背中がおそらく構造色で虹色に見え、美しい。

2016年6月11日土曜日

ここ2週間の蛾

すっかり気温も夏めき、見られる蛾の種類も徐々に豊富になってきた。
ここ2週間で出会った蛾を紹介する。

ミダレカクモンハマキ Archips fuscocupreanus
16.06.01, 東京都目黒区
このあいだ幼虫を紹介したが、ついに成虫を見ることができた。
体長20mmにも満たない小さく目立たない蛾だが、こういうものもきちんと名前が与えられ分類がされているという事実を改めて考えると、ほとんどめまいのする思いがする。


カノコガ Amata fortunei
16.06.03, 東京都調布市
昼行性の蛾。羽の鹿の子模様は半透明。
ウィキペディアによればフタオビドロバチに擬態(ベイツ型擬態)しているとされる、ということだが、それほど似ているようにも見えないのだがいかがだろうか。ある生きものが実際に別の生き物に擬態している、ということを説得力を持って示すのは、なかなか難しいようにも思われる。



ウメエダシャク Cystidia couaggaria
16.06.06, 東京都調布市
毎年この時期になると、梅のある果樹園の下生えをたくさんのウメエダシャクが独特のヒラヒラとした飛び方で飛んでいるのが見受けられる。クロマダラエダシャク、トンボエダシャク、ヒロオビトンボエダシャクなど、形・模様ともに似通った近縁種が多いが、ウメエダシャクは翅の端の模様が櫛状になっているのが特徴とのこと(1枚目の写真の個体ではやや不鮮明)。模様についててはカノコガにも似ているように見えるが、この辺も擬態という観点から考えていくと面白いかもしれない。ちなみに今週号のNatureに蛾の擬態と工業暗化に関与する遺伝子についての論文が1本ずつ掲載されていたので、そのうち読んでレビューを掲載しようと思う。





2016年6月5日日曜日

ホタルガ

新宿駅の南口がNYのハイラインみたいになっていた。
その奥の方で洋書のみを残して紀伊国屋が閉店するらしい。

2016年5月22日日曜日

北上する色彩

文京区本郷の東京大学総合研究博物館が今月14日にリニューアルオープンしたということで、訪問してきた。
収蔵容器を巧みに使い回した展示が特徴的で、調査研究の現場の雰囲気がよく伝わってきた(逆に言えばやや雑然として見えるかもしれない)。

その中に、「気候変動と共に分布を広げている昆虫」の標本がいくつかまとめてあったので、紹介する。


右上は、当ブログでも先日紹介したツマグロヒョウモン。残りの三種(左上・ナガサキアゲハ、左下・クロマダラソテツシジミ、右下・ムラサキツバメ)は、今のところ筆者は東京で見かけたことはない。


左上のクロメンガタスズメは東大キャンパス内でも確認されているらしい。右下のアオドウガネは夏場にはあまりにも普通に見かけるので、そもそも南方の種であるということを把握していなかった。関西ではお馴染みのクマゼミ(右上)は、西日本に独特のサウンドスケープをつくり上げる上で一役買っていると思うが、現在では湘南あたりでまで普通のセミとなっているようだ。このまま順調に彼らが分布を広げれば、2020年には我々はクマゼミの鳴き声を聴きながらスポーツ観戦をすることになるかもしれない。